一ノ一:蒼の不協和音(七海の場合)
―天下の菜ヶ崎。
私たちの通う、私立菜ヶ崎学園は、進学率の高さと施設の充実度でそう呼ばれる。
で、私は今年の四月からその高等部文系に通っているわけなのだけど。
「…七海?」
隣で歩いている高坂蒼里が、私の顔を覗きこんで問いかけた。
「…あ、何?」
「……どうしたの、ボーッとして」
「…ん、何でもないよ」
私は大きく伸びをして、蒼里の肩を抱きよせた―ら、
風を切る音がした。
ヒュンッ。
『!!?』
振り返ると、風を切ったのが木刀で、それを振り下ろしたのが丈の長い学ランを着た、黒髪の人間であることが理解できた。
「…な、何がっ……!」
「おい、そこの髪が短いお前」
―どうやら、私のことらしい。
「…何すか」
「生徒手帳の校則欄の最後の項目を見ろ」
言われるままに手帳を取り出し、私は最後の項目を見た。
「…『校内での生徒間または生徒教員間での恋愛感情を主とした行為を禁ずる』」
「校則に違反した者は、放課後生徒会にて査問を行う。今日の放課後、第三生徒会室へ来い」
そう言って、男とも女ともつかぬその人間は、学ランを翻して去って行った。
―生徒会の目に引っ掛かるようなこと、あたししたっけ…?
「…さっきのじゃないの、七海」
「さっきのって…引き寄せた時?」
確かに蒼里は大事な私の親友ではあるが、そんな感情は持った覚えがない。
「…世間じゃ抱き寄せるって言うんだけどね」
苦笑いを浮かべて蒼里が言った。
「…ところでさ、あの人、誰?」
「……もう、七海は疎いんだから。生徒会書記の水崎先輩だよ」
―水崎先輩、ねぇ…。
そんな訳で、私こと諍七海は、生徒会書記・水崎に呼び出しを食らったのだった。
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